消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)115.3(2026年4月値)÷17.1(昭和32年)=6.7倍
- 富士市の奴隷契約
会社は、誘致契約の最大の条件として、富士市に対し、二十万坪(工事敷地二十万坪、住宅地二万坪)の用地提供、これに関連する排水路、水道、市道などの付け替え工事、とくに田子の浦人造港を建設し、富士市地域内の同港の埠頭の9割を旭化成の専用とし、旭化成は、一切その負担を負わないという契約がなされた。この結果、市は、極めて企業優先による工場誘致を余儀なくされ、会社の要求する条件整備のため、市の行財政を圧迫してまでも、特定企業の要求にこたえる先行投資をおこなわなければならなかった。
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| 見えづらくてすみません… |
この結果、二十二万坪の用地買収額は、総額4億1556円で、そのうち旭化成が、3億782万円、市が1億782万円余を負担した。しかし市が負担する分については、市が財政余力がないため、旭化成から8233万円を年8分の利息で借金して支払っているのである。ここで注目すべきことは、会社の負担部分については無利息で市が立て替え、市の負担部分については、会社が8分で貸し付けるという契約条件となっていることである。
これがどれくらいおかしなことかというと、A社が金融機関から有利子負債という形でお金を借りている一方、なんとその金融機関がA社から有利子負債分を遥かに凌駕するお金を無利子で借りているということと同じである。こんなバカバカしい話はあまり聞かない。ウシジマくん顔負けの悪魔契約である。
こんなことであるならば、普通に市債を発行すればいいだけの話のように思える。これでは旭化成側の「利益剰余金」が増加するだけである。また、以下のように続く(笠井1964;p.64-65)。
このような形で工場誘致がなされてよいものであろうか。単純にわりきってしまうわけにはいかない。このシワ寄せは、住民の負担としてもどってくるからである。(中略)つぎは、旭化成の誘致の最大の条件になった田子浦人造港の建設である。(中略)ところが、こうした膨大な地元負担にもかかわらず、一切その負担は旭化成は負っていないばかりか、契約にもとづいて、完成後の同港の埠頭は、旭化成が9割まで専有することになっている。
上述したように、最終的には9割専有することは無かったのであるが、専用埠頭の契約は田子の浦港の活用の振り幅を制限することになる。また後発の他企業からすれば、不公平感を感じずには居られないだろう。
そもそも富士市は旭化成から正当な対価を得ていたのだろうか。奴隷契約が有効であり続け、過小なものになってはいないだろうか。また、以下のように続く(笠井1964;p.65)。
さらに富士市は、こうした旭化成にたいする特別優遇措置のほかに、誘致条件の免税措置(富士市は工場誘致条例がない)として、35年より、固定資産税を3年間は10割。その後2年間7割相当額を免除することにし、(中略)またこのほかに旭化成にたいして土地代金、関連事業費、奨学金など、工業化による先行投資は、7年間に約8億円に達している。こうした市の先行投資は、38年度の市の総財政規模8億円余からみて膨大な額にあたっていることがわかる。
平たく言えば、以下のようにまとめられる。
富士市が「地上げ屋」として奔走し、自身に帰属しないのにも関わらずその土地代まで払わせられ、その上でその土地代の有利子負債分まで献上する
一方は全く汗を流さないが、もう一方は静観しているだけでなぜかお金が入ってくるという摩訶不思議な構造なのである。ここまで馬鹿馬鹿しい契約は本当に聞いたことがない。
- 労働・賃金問題
また、以下のように続く(笠井1964;p.65)。
ところで市は、旭化成の工場用地買収にさいして、土地提供者世帯ごとに1名を優先的に会社に採用することが、買収の条件とされていたが、土地提供者242世帯のうち約4割に当る101名が採用されているにすぎない。
この制度は住民の間で「1戸1人」という言葉で知られていた。ちなみに採用されたとしても実際は工務系の低賃金労働だったようで、操業開始年の35年末現在の退職者は72名にまで上ったという(101名のうち)。あまりにも酷い話である。
(福士2004;p.4)には以下のようにある。
富士市がこれほどまでに工場誘致に熱心になった理由は、雇用機会の増大と地域振興への期待にあったと考えられる。しかし、旭化成工業全体の従業員数を見てみると、1955年から1965年までの10年間は約 16,000人の前後で推移している。この時期は、化学繊維業界の過当競争による経営不振や、新規事業参入による富士、川崎などへの新工場設立などがあったが、「合理化による余剰人員は新部門で吸収する」という社の方針があり、結果として旧・富士市側が期待したような地元の雇用促進に大きな成果はなかった。
土地買収に際し企業側が農民に対して優先雇用を約束することがこの場合にもおこなわれた。しかし土地を提供した農民に与えられた職種について、農民の不満はかなり強く、旭化成に採用された61人のうち12人が1年くらいで退職した。就業・退職などについては、前掲42)に詳細な資料が示されている。
- 23才の若い人は13,000円位で、喜んでいる
- (土地提供で入社しても)風呂番で2年という契約もあった
- 1戸1人といっても、大面積と小面積の人は同じ
- 学校を出ていないというだけで、給料に3,000円から4,000円の差がある
- 土地を対価として入社した人はすぐクビという噂がある
- 寮は大学出と中学出で区別されている
- 月7,000円の安月給だから、農業をしようか考えている
- 35才の女性の人が、仕事は便所の掃除や雑用で、日給は200円だと聞いて辞めた
- 学校出と4,000円も給料が違う
- 劇薬を使う危ないところは部下にやらせてくる
- 子供4人をかかえて9,000円の給料ではやっていけない
- 1戸1人採用という条件だったのに、色盲ということで駄目だった。大昭和ではそういう人も雇ってくれる
- イオンタウン富士南の土地の帰属は?
富士市が多額の資金と心血を注いで旭化成のために取得した土地(社宅跡なので、当時からその用途であっただろう)
である(すべてではないかもしれないが)。この土地は旭化成の社宅跡に該当するが、不要となった場合、経緯を考えれば富士市に帰属させるのが筋ではないだろうか。富士市は必要な土地であるので取得に走ったわけで、前提が崩れれば再考するのは当たり前の話ではないか。つまりイオンタウン富士南の土地は旭化成から無償譲渡されるべきであると考える(少なくとも富士市が交渉した経緯の土地分は)。
例えば富士常葉大学の用地は、富士市から常葉大学側に土地自体が無償譲渡されていた。しかし廃校にあたり、常葉大学側は富士市に土地を返還している。イオンタウン富士南の土地も、同様にあって然るべきであろう。そして富士市がこの土地を再開発し、富士市自身の手で発展に繋げていくべきではないだろうか。もっと言えば、専用岸壁の対価が妥当であるか、少し調査をした方が良いのではないだろうか。さすがに何の対価も得ていないということは無いと思うが…。
- おわりに
2:「富士地区の「富士」を巡る会話はなぜカオスなのかを考える」
- 参考文献
- 静岡県民会館公聴課(1961)『工業化の影響 富士市田子浦地区 実態調査報告書』、静岡県民会館
- 笠井文保(1964)「新産業都市の建設と近郊農村の変貌 -東駿河湾地区・富士市の事例-」『農村研究 第19号』、東京農業大学農業経済学会、57-70
- 太田勇(1666)「岳南地方の工業化(続報)」『地理学評論 39巻1号』、日本地理学会、1-19
- 富士市 (1986)『富士市二十年史』
- 福士哲生(2004)「昭和期の市町村合併と地域経済・地方財政-静岡県富士市を例に-」『資本と地域1』、地域経済研究会


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