2011年4月9日土曜日

村山修験

  • 村山修験とは
富士山における修験道(山に篭り修行を行う行為)の一派。起源は富士山修験道の開祖である末代上人の意思を継ぐ頼尊が、村山の地に興法寺を開いたことから始まるという。

  • なぜ村山なのか
例えば『地蔵菩薩霊験記』(平安時代成立)には末代上人が村山の地にて活動をし、即身仏となって富士山の守護神になったと記している。この時代における富士信仰に関する記述は、非常に少ない。それだけでなく修行の地が記され、なおかつ明確に富士信仰と確認できる点で非常に重要である。このように古くから修験の地として記録に残る地が村山なのである。「なぜ村山か」といえば、富士信仰の重要人物による活動場所であったことが大きいと言える。「富士信仰とは何か」で記したように、村山修験は律令国家による祭祀とは別の理由から発祥した富士信仰の形態と言えます。


  • 掟判物で見えてくる村山
村山修験の特徴として、「掟判物」がある。これは村山修験の話のときには欠くことはできない。この掟の内容により、村山の性質が見えてくるためである。


「戦国期における村山修験」にあるように、今川家から掟判物が繰り返し発布されている。上記は今川義元が村山三坊の1つ「大鏡坊」に宛てたものであるが、それ以後「天文24年」、「弘治2年」、「永禄3年」、「永禄10年」とほとんど同様の文書が発布されている。

一、於村山室中不可魚類商買并汚穢不浄者不可出入事
「村山室中」の「室」は「村山の空間」として捉えられる。村山という空間そのものが、アジール空間として捉えられていたのである。この一条目は最も重要である。「并汚穢不浄者不可出入事」とあることから、不浄者などを出入り禁止とした「聖地」としているわけである。

一、着来道者可為如前々事
村山に到着した道者への対応として、これまでの習慣に従うようにという内容である。

一、他坊之道者無証拠不可奪取事
他の宿坊の道者を理不尽に奪うことを禁ずる、という内容である。村山は三坊の存在からもわかるように道者坊のある地域でもある。三坊同士での奪い合いを防ぐ目的があったと思われる。

一、六月間為久借不可取質物并道者間譴責使令停止之事
ここの解釈は「戦国期における村山修験」で詳しく書かれている。

一、喧嘩口論不可有他之綺事付雖為通法博奕・押買・狼藉堅停止之事
これは一条目に繋がってくる内容であろう。争いごとや口論などを禁じているわけであり、汚れのない地ということを意識している。道者の関係もあるだろう。

一、悪党之事前々於山中就相計者可任旧規事
「村山における不入権の保障」を意味すると考えられている。これも一条目に繋がってくる内容である。

一、道者参詣之間他之被官以下雖有主人不可押取事右条々所相定也若於違犯之輩者依注進可加下知者也仍如件
文献によると「道者が富士参詣中は、たとえその道者の主人たる身分の者も、その道者に手出しすることは出来ない」というように読み取っている。

「戦国期における村山修験」では、これからの記録から「村山のアジール的性格」を指摘している。「アジール」といえば網野善彦氏であるが、その指摘は私も本当にその通りだと思う。村山というエリアが聖地なのであり、そこは守られた空間であったと私も考えます。

  • 村山三坊
村山三坊とは村山における有力宿坊地のこと。「大鏡坊」・「辻之坊」・「池西坊」を総称して呼ぶ。15世紀以降から宿坊地が増加し始めたと考えられており、統廃合を繰り返し16世紀には3つに収まったそれが村山三坊である。富士山興法寺や登山道の管理も行なっていた。先ほど「村山は聖地として特別な管理をされていた」というようなことをかきましたが、その村山の各施設管理しているのはこの村山三坊であるため、言い換えると村山三坊が絶大な権力を保持していたということになる。外国人で初めて富士登山を行ったラザフォード・オールコックも村山三坊の大鏡坊に宿泊しました。

  • 村山における修行形式 
村山三坊の山伏修行として「富士峯修行」が行われていた。夜間に白装束をまとい山頂を目指して登山を行っていた。富士峯修行の際にはに東麓、南麓の村を年一回巡回し加持祈祷等を行ったという。また村山浅間神社境内に「竜頭滝(池)」という湧水地があり、山伏修行や修験者が水垢離などを行っていた。水の落ち口には不動明王像が安置されている。

竜頭滝(絹本著色富士曼荼羅図)
  • 参考文献 
  1. 遠藤秀男, 「富士信仰の成立と村山修験」『富士・御嶽と中部霊山』(山岳宗教史研究叢書9),1978 
  2. 近藤幸男,「戦国期における村山修験」『地方史静岡第13号』,静岡県立中央図書館,1960
  3. 小林一蓁,「富士修験道」『富士浅間信仰 』,雄山閣出版,1987(POD版が2003年に発売)

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